「小説の取扱説明書」~その49 一行空きと体言止めの功罪

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2021.02.26

 

公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。毎週金曜日に配信。
第49回のテーマは、「一行空きと体言止めの功罪」です。

一行空きを多用すると場面が切れてしまう

初心者に「一行空き」が多いのはWEB小説の影響のようですが、会話の部分を一行空きで区別する必要はありません。
場面転換をするたびに一行空きの断章を設ける人もいますが、場面の連続性が失われますので、一行空きは必要最小限にしましょう。

 男が葉子の肩につかまって線路へ下りようとした時に、こちらから駅員が手を上げて止めた。
 やがて闇から現われて来た長い貨物列車が二人の姿を隠した。
 宿屋の客引きの番頭は火事場の消防にようにものものしい雪装束だった。耳をつつみ、ゴムの長靴をはいていた。

(川端康成『雪国』)

『雪国』の冒頭では主人公は汽車の中にいますが、このあと、主人公は目的地のある駅で降ります。引用部分がその箇所で、ここで一行空け、次の場面では番頭と自動車に乗って宿に向かっています。
省略されたのは線路から自動車に乗るまでですが、そこまでだらだら書くと間延びしますので、この省略はいい飛ばしと言えます。
よくないのは、原稿用紙に何枚か書いては一行空きで場面転換をし、これをどんどん続けること。これをやると場面をダイジェストしたような印象になってしまいます。

体言止めはここぞというところだけに

体言止めはうまく使うと歯切れがよくなりますし、実用書やレシピなどでは体言止めをすることで文字を少なくしたいということもあると思いますが、文芸というジャンルではあまり多用しないほうが得策です。

 娘さんは、興奮して頬をまっかにしていた。だまって空を指さした。見ると、雪。はっと思った。富士に雪が降ったのだ。山頂が、まっしろに、光りかがやいていた。御坂の富士も、ばかにできないぞと思った。

(太宰治『走れメロス』所収「富嶽百景」)

「見ると、雪。」が体言止めです。名詞で止めなければ、「見ると、雪があった。」でしょうか。体言止めにするということは、そのあとを省略するということで、何を省略したのか読者に推測を強いることにもなりますが、「があった」ぐらいなら省略しても問題ありません。
特にこの段落は文末がすべて過去形ですから、これは効果的ですし、センテンスが7つあるうちの真ん中あたりに体言止めを持ってきたことで、ここで跳ねるようなリズムが生まれています。

やめたほうがいいと思うのは、体言止めにする必要なない箇所でやったり、乱発したりすることです。
前の引用部分を書き換えれば、
「娘さんは、興奮して頬がまっか。だまって指さした空。見ると、雪。」
のような書き方です。
このような節操のないことをやっても、誰も得しません。

(ヨルモ)

 
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