「小説の取扱説明書」~その53 作者の次元(メタレベル) 

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2021.04.06

公募ガイドのキャラクター・ヨルモが小説の書き方やコツをアドバイスします。ショートショートから長編小説まで、小説の執筆に必要な情報が満載の連載企画です。隔週の金曜日に配信。
第53回のテーマは、「作者の次元(メタレベル)」です。

昔の小説は「作者=語り手」が多かった

小説の舞台は、プロレスでいうリングのようなところです。
観客席とは地続きのようでいて、そこには大きな境目があり、観客(読者)は舞台に上がることはできません。
舞台は架空の空間であり、そこでは生身の人間は存在することができないからです。
では、作者はどうでしょうか。作者もまたしかりですが、古い小説ではたまに語り手(ナレーター)として顔出ししたりします。

十蔵が鈎縄を手ぐりよせようとする転瞬、ぷっつりと縄は断ち切られている。
梅吉の右手に短刀が光っていた。
なんとも恐るべき早業で、十蔵はいささか梅吉を甘く見ていたといえよう。

(池波正太郎『鬼平犯科帳』)

この場面を語っているのは誰でしょうか。
普通に考えれば作者の池波正太郎ですが、先ほども書いたように作中に生身の人間は登場できません。そう考えると、この語り手は池波正太郎によく似た架空の語り手ということになります。
古い小説では「作者自身がストーリーを語る」意識で書かれる作家が多く、『鬼平犯科帳』よりもっと古い19世紀の大衆小説はほとんどが神の視点で書かれました。

現代小説的に書くと……

さて、引用した部分。
最初の2行では、語り手である作者は陰に身をひそめていて、前には出ていません。視点人物として十蔵を立て、十蔵の知覚を借りて語っています。
簡単に言えば、十蔵が見たものを文章化し、〈梅吉の右手に短刀が光っていた。〉と書いているわけですね。
ところが、3行目は違います。

〈十蔵はいささか梅吉を甘く見ていたといえよう。〉は、作者であり、語り手でもある池波正太郎自身が書いている感じです。特に「といえよう」のあたりがそうですね。これがいわゆる“作者の顔出し”です。

小説の構造を図示的に書けば、
「作者<人物<場面」
ということになります。

作者はもっとも上位の次元(メタレベル)にいて、全体を俯瞰で見ています。
下位の次元には人物がいて、人物が見た情景が小説に書かれるわけですが、神の視点の場合、作者の存在が大きい。「この話は私(作者)が書いている」という意識がとても強いんですね。

だから、〈十蔵はいささか梅吉を甘く見ていたといえよう。〉になるわけですが、引用部分した場面をあくまでも十蔵の視点で書くなら、
〈十蔵は梅吉を甘く見ていたと思い知った。〉
現代小説ではこんなふうになるのが一般かと思います。

(ヨルモ)

 
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