あなたとよむ短歌 vol.13 慣用的表現の誘惑

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2021.04.09

あなたとよむ短歌
vol.13
慣用的表現の誘惑

こんにちは、柴田葵です。風が強い日が続きますね。
俵万智さんの歌集『サラダ記念日』に収録されている「野球ゲーム」という作品の中には、このような短歌があります。

咲くことも散ることもなく天に向く電信柱に吹く春の風
(俵万智『サラダ記念日』河出書房新社)

電信柱は木と違って、花が咲きも散りもしません。無機質な電信柱ですが、常にしっかりと天を向いています。人間に喩えるなら、華やかな人生を歩み、夢や恋を達成するような人だけでなく、ただ真っ直ぐに生きている人にも春風は吹くという、応援歌のような一首です。

それでは今回も、投稿していただいた作品を一緒に読んで・詠んでいきましょう。

満面の笑みで履いてるパパの靴君の未来はどんな色かな
(ぽこさんママさん/ヒラキ靴短冊大賞/テーマ「靴にまつわる思い出」)


「ヒラキ靴短冊大賞」は月刊公募ガイドでも紹介している公募です。兵庫県の株式会社ヒラキが開催する「ヒラキ靴まつり・靴供養」のなかで発表されるもので、靴に関する思いやエピソードを31文字以内の作品にして応募します。「短冊に書ける長さ」ということですね。
もちろん応募する作品は短歌でもOKで、実際、入賞作には短歌形式のものが多いようです。
ちなみに、新型コロナの影響で、昨年から開催の目処が立っていないようです。地元の皆さんも楽しみにしているお祭り、早く再開できるといいですね。

さて、ぽこさんママさんの短歌は、とても微笑ましい作品です。
小さなお子さんが、玄関にある大きな紳士靴を履く姿。いたずらっ子そうな、うれしそうな笑顔が伝わってきます。
その様子をぽこさんママさんが見て「なんてかわいいんだろう!」と思っている、その優しい眼差しまで想像できそうです。

少し気になった点は「満面の笑み」「未来はどんな色」の2つの表現。
よく見聞きするこれらの表現は、作品に取り入れると妙にビシッと決まるような気がします。安定感もあります。けれども、そこをグッと我慢して「他の表現はないか」と考えることで、短い一首に個性が生まれます。

お子さんの顔の大きさ、日の当たり方、声は出していたか……。「満面の笑み」とは、どんな笑みだったのでしょう?
ぽこさんママさんのその時の心情を思い出してください。「未来はどんな色」という問いかけが本当にぴったりでしょうか?

① まんまるな笑顔でパパの靴を履く君の未来もきっと花丸
② 太陽の笑顔でパパの靴を履く君もいつかは大人になるね

例を挙げてみました。大きく変わっているように見えるかもしれませんが、多少語順を整理したほかは、「満面の笑み」「未来はどんな色」を別の表現にしただけです。
①は、幼児らしい丸い顔を、花丸につなげてみました。
②は、笑顔を太陽に喩えました。子どもの笑顔は眩しいですよね。大きな紳士靴を履く姿を見て「この子もいつかは……」と思ったとしたら、②のような結句もありかもしれません。

いかがでしょうか。ありがちな「慣用的表現」を選んでしまう前に、ぜひ別の表現を試してみてください!
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
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