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あなたとよむ短歌 vol.14 1音の可能性

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2021.05.07

あなたとよむ短歌
vol.14
1音の可能性

こんにちは、柴田葵です。
実は今年の3分の1が過ぎたことにお気づきですか? いやいや「物は言いよう」ですね。あと3分の2も残っています!
年度が改まって新しい公募が増えてくる時期。ピンとくるものがあれば、ぜひ投稿してみてください。

それでは今回も、投稿していただいた作品を一緒に読んで・詠んでいきましょう。

発泡酒一缶冷やして出る朝よ今夜は夫が餃子を焼く日
(チームさぼさぼさん/山上憶良短歌賞/テーマ「家族」)


「山上憶良短歌賞」は、歌人・山上憶良が国守として赴任した鳥取県倉吉市で開催される賞です。万葉集に80首も収録されている憶良について、国語の教科書で学んだ方も多いのではないでしょうか。
妻や子どものことを数多く詠んだ憶良にちなみ、山上憶良短歌賞では毎年「家族」をテーマにしています。家族詠はその時代の状況も映し出す、興味深いジャンルです。

さて、チームさぼさぼさんのこちらの一首、すばらしいと思いませんか。
餃子の夕飯を楽しみにする弾んだ心が「発泡酒一缶冷やして出る朝よ」という上句からありありと伝わってきます。冷蔵庫のひんやりした空気や発泡酒の重みなど、五感を使って楽しめる作品です。
「出る朝よ」の「よ」も効いています。同じように「よ」を使っている短歌としては、

友がみなわれよりえらく見ゆる日よ/花を買ひ来て/妻としたしむ
(石川啄木 ※/は改行)

が有名かもしれません。なんとも言えない気持ちの高まりが「よ」に表現されていますね。

すでに十分に魅力的な作品なので、今回、ご紹介するのを迷いました。けれども思い切って、下句について考えてみたいと思います。
「今夜は夫が餃子を焼く日」は、弾むようなリズムが心地よく、心情にぴったり合っています。一方で、意味としては「今夜は」「日」のいずれか片方さえあれば、夕飯に夫が餃子を焼く日である点は伝わりそうです。

発泡酒一缶冷やして出る朝よ今夜は夫が餃子を焼く○
発泡酒一缶冷やして出る朝よ○○○○夫が餃子を焼く日

約31音で構成される短歌においては、1音が作品の31分の1を占めます(当たり前ですね)。そう思うと、1音1音推敲するのも決して無駄ではありません。
例えば、最後の「日」の1音を「の」や「よ」に変えてみましょう。

① 発泡酒一缶冷やして出る朝よ今夜は夫が餃子を焼くの
② 発泡酒一缶冷やして出る朝よ今夜は夫が餃子を焼くよ

口語体や会話調を短歌に使うと、一首に柔らかさや軽やかさが出ます(締まりがなくなる場合もあるので、その点もよく考えましょう)。①はウキウキ感が増したように思います。②は敢えて「よ」を重ねることで、独特のリズムが生まれています。少し好き嫌いがあるかもしれませんね。ぜひ自分の好みを見つけてください。

次に「今夜は」の4音を変えてみました。

③ 発泡酒一缶冷やして出る朝よ夫が餃子を焼く金曜日
④ 発泡酒一缶冷やして出る朝よ夫が餃子を焼く誕生日
⑤ 発泡酒一缶冷やして出る朝よ夫が餃子をびっしり焼く日

情報量が増えました。③はプレミアムフライデー感が、④は手作り餃子で祝う親密さが、⑤は夫の几帳面な性格と大量の餃子が見えてきます。

いかがでしょうか。ほんの数音変えるだけで、感情を強めたり情報を増やせたり……可能性を探るのは楽しいですね。
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
応募要項
応募規定 ペンネームと、入選を逃した公募タイトル・応募した作品・お題やテーマ(ある場合のみ)をお送りください。
応募方法 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌」をつけてツイートしてください。
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