あなたとよむ短歌 vol.18 風景を取り入れる

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2021.09.09

あなたとよむ短歌
vol.18
風景を取り入れる

こんにちは、柴田葵です。お元気にお過ごしでしょうか?
少しずつ過ごしやすい気候になってきました。遠くへ旅行へ行かれなくとも、セミの声が変わったり、葉の色がくすんだり、スーパーに鍋つゆの素が並びだしたり……。なにげない風景も、少しずつ変化が見られるはずです。

今年の秋は「短歌の秋」にしてみるのもアリかもしれません。それでは、今月も寄せられた一首を読んで・詠んでいきましょう!

行きつけの店がなくなる寂しさは親しき友の死ぬるにも似て
(ゴルゴキャットさん/朝日歌壇)


今回の短歌は、朝日新聞の短歌投稿コーナー・朝日歌壇へ応募した作品。各新聞の○○歌壇(いわゆる新聞歌壇)は、全国から数多の投稿があり、採用倍率も高いそうです。読者が多いので、常連になると全国規模で名前が知られます。

ゴルゴキャットさんの作品は、このコロナ禍に切実な一首ですね。
新聞歌壇は、選者の意向にもよりますが、比較的「時事詠(社会問題などをテーマにした短歌)」も多く採用される傾向があります。新聞との親和性もあるかもしれません。いつでも気軽に行けると思っていたお店が閉店し、もう一生行けなくなってしまった、その寂しさを「いつでも会えると思っていた友人の死」と重ね合わせた一首です。

作品の意味・内容がしっかりと伝わってくる作品です。ただ、もう少し読者を信頼して「書かなくても」いいかもしれません。

例えば「寂しさ」と書いてしまうと、読者は「ああ、寂しいんだな」と考えてしまいます。「親しき友の死ぬるにも似て」という比喩は「寂しさ」だけでなく、なんとも言えない「辛さ」や「やるせなさ」「無力感」なども豊かに表現しているので、この場合は「寂しさ」と書いてしまわない方がいいかもしません。
また、「親しき友」についても、わざわざ「親しき」と言わずとも親密さはしっかり伝わる気がします。

こうした部分を削ると音数に余裕が出そうです。そうなると、何を加えたらいいでしょうか。

この短歌の「主体」はどこにいるのでしょうか? 閉まっている店のシャッターの前でしょうか? 店からのハガキが届いた郵便受けでしょうか? 時間は何時ごろでしょうか? 夕方でしょうか?
冒頭で書いたとおり、風景はさまざまに移ろいます。同じ風景は二度とありません。短歌のなかにも積極的に風景を取り入れることで、一首のなかに個性がでてきます。

① 行きつけの店がなくなり友人の訃報を手にしたような夕暮れ
② 行きつけの店がなくなり友人を亡くしたような心でバスへ

例を2つ考えてみました。①は、夕暮れに飲みにいった「行きつけの店」に閉店を告げる張り紙があった、という風景をイメージしました。物悲しく白い張り紙は、まるで訃報を知らせる電報やハガキのようです。
②は、仕事帰りに寄っていた「行きつけの店」が閉店し、仕方なくバスで帰路に着く風景です。「ここで降りて店に通ったな」「歩いて店に寄っていたから、バスは久しぶりだな」などと思いだしながら、心に穴が開いたような気持ちでバスに揺られるシーンを意識しました。

このように、心情を描く短歌でも時間・場所・物など風景を取り入れると、描かれる心情そのものにもリアリティが増します。

引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌(投稿できなかった短歌)もお待ちしています!

 
■講師プロフィール
柴田 葵 1982年、神奈川県生まれ。元銀行員、現在はライター。「NHK短歌」や雑誌ダ・ヴィンチ「短歌ください」、短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」への投稿を経て、育児クラスタ短歌サークル「いくらたん」、詩・俳句・短歌同人「Qai(クヮイ)」に参加。第6回現代短歌社賞候補。第2回石井僚一短歌賞次席「ぺらぺらなおでん」。第1回笹井宏之賞大賞「母の愛、僕のラブ」。
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