あなたとよむ短歌 vol.3「具体的」にする
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2020.06.09

「具体的」にする
こんにちは、柴田葵です。
連載『あなたとよむ短歌』、おかげさまで3回目になりました。 公募に応募したものの入選を逃した短歌作品を投稿していただき、一緒に読んで・詠んでいくコーナーです。
第1回にも書きましたが、短歌の取り組み方は人それぞれ。自分自身で作品を追求することも、短歌で日記をつけることも、結社やカルチャースクールで学ぶことも、生涯にたった一首を詠んで誰かに贈ることも、どれも優劣ありません。公募に応募することも面白い取り組み方のひとつです。応募すると、必ず誰かに作品を読んでもらえます。また、応募者としては「入選したらいいな」という気持ちがあるはずです。
公募にチャレンジした勇気や行動が、実を結ぶヒントになりますように。
それでは、今回の短歌はこちらです!


月刊公募ガイドで連載されている「東直子の短歌の時間」は、小説・絵本・劇の作家、イラストレーターとしても活躍される歌人・東直子さんの人気コーナー。毎月、決まった題またはテーマが設定されています。そのように短歌を詠むことを「題詠」「テーマ詠」と言います。「テーマ詠」は内容がテーマにそっていればOKですが、「題詠」は設定された題(言葉)を作品に入れることが条件である場合もあります。募集要項は要チェックです。私もずっと同コーナーの読者で、2017年には公募ガイド社主催の「出張!短歌の時間」という勉強会イベントに申し込み、参加しました。歌人の東さんに直接お話を聞きたかったからです。公募をきっかけに出かけてみたり、人に会ったり、活動を広げていくのも楽しいことです。
はっちさんの作品は「掃除」というテーマにもぴったりな素敵な短歌です。新生児用の育児用品は数ヶ月で使わなくなり、ベビー服はすぐに小さくなります。母親になって1年目、それらのグッズそれぞれに思い入れがあり、なかなか捨てられない様子。掃除は同じ動作の繰り返しです。「あれは思い出」「これは記念に」と同じ構造の7音をあえて重ねることで、まさに掃除らしい雰囲気がでています。
この短歌の魅力をさらに引き出して、入選に近づくには、どうすれば良いでしょうか?
今回は「具体性」について考えてみます。
「あれ・これ」という代名詞は、具体的な物を示しません。読者に想像をゆだねます。もちろん、それが効果的に働く場合もあります。けれども、読者まかせにする分、インパクトが弱まったり、個性が失われやすいというリスクもあります。
はっちさんの作品でも「あれ・これ」は楽しいリズムを生んでいます。一方で「あれ」や「これ」が「何か」を読者にまかせてしまっているので、ぼんやりとした「一般的なお母さん」像しか浮かびません。「この人は何を手にしているのか、何を捨てられないでいるのか」を具体的にすることで、はっちさん以外の人にはつくれない、はっちさんらしい作品になる気がします。
一旦、「あれ・これ」の部分を取ってみました。


この□にぜひ、具体的なものを入れてみてほしいのです。2音ずつにこだわる必要もありません。
何を入れるか、「あれ・これ」のままが良いか、はっちさん次第なのですが、僭越ながらここでは私が実験的に入れてみます。


いかがでしょうか。具体的にすることで、食器や布という、手触りの異なる2つの物を想像できるかと思います。そしてその先に、かつて練習用マグや授乳ケープを使っていた、そして要らなくなった、少し大きい赤ちゃんのイメージが湧くかもしれません。意識的・戦略的に「あれ」「これ」を使うのも◎ですが、そうでなければ具体的にした方が、より彩り豊かな作品になることが多いです。
引き続き、一緒に「読む・詠む」短歌を募集中です。コンテストだけでなく、新聞歌壇、雑誌投稿、WEB投稿の短歌もお待ちしています!

応募規定 | ペンネームと、入選を逃した公募タイトル・応募した作品・お題やテーマ(ある場合のみ)をお送りください。 |
応募方法 | 応募フォームもしくはTwitterでご応募ください。Twitterの場合は公募ガイド公式アカウント「@kouboguide」をフォローして、ハッシュタグ「#あなたとよむ短歌」をつけてツイートしてください。 |
賞 | 採用1点=公募ガイドONLINE上で講評・アドバイス |
締切 | 常時募集 |
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