「湊かなえ×柏田道夫」対談【後編】

2018.12.21

公募ガイド1月号「湊かなえ大特集」記念 後編

現在発売中の公募ガイド1月号は、「湊かなえ大特集」です。デビューから10年経った湊さんの、これまでの軌跡をまとめました。これを記念して、2009年10月号の特集で行った、湊かなえさんと柏田道夫さんによる対談を特別公開します。

湊かなえ
1973年、広島県生まれ。2007年「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌年『告白』でデビューし、09年本屋大賞を受賞。『リバース』『未来』『ブロードキャスト』など著書多数。

 
柏田道夫
小説家、劇作家、シナリオ・センター講師。著書に、『武士の料理帖』(映画脚本も務める)、『一億人の超短編シナリオ実践添削教室』など。

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スタートとゴールだけを決め物語をふくらませていく

柏田
「聖職者」の、教師の独り語りの中、さまざまな話題が最後に一挙に結びつくあの手法は、本当に見事だし、新しいなと思いました。

あの作品では、細かいプロット作りはしているんですか?


スタートとゴールは作りますね。例えば、「牛乳」の話から始まって、最後、「牛乳」にまつわる話に帰結する。最初はそれだけ決めて、その間にどんな話題を挟むか、どんな風に追いつめていくかという肉付けをします。

「聖職者」でいえば、教師の話を聞いているのは中学生ですから、読者に「中学生がこんなクダクダした長い話を聞いてられないよ」と思われないよう、中学生が飽きのこない、テレビドラマのような場面展開を心がけました。

これも先生の講座で勉強したんですが、1時間もののドラマには、40本ぐらいの柱がなければいけないと。「聖職者」のような80枚の短編なら、ボリューム的に1時間ドラマと同じと考えて、教師の語りの中に40本ぐらいのさまざまな話題を入れていこうと意識しました。推敲のときに話題を囲って数えてみたら、45本ぐらいだったので、「よしよし」って(笑)。

柏田
そういう感覚でミステリを構築する作家さんって少ないでしょうね。場面展開としてはあるんだろうけど、独白の中の話題転換でリズムに緩急をつけて、なおかつ最後の場面に向かってジワジワ怖くなっていくっていうあの感覚。最初に読んだときに、すごく衝撃を受けました。

私が教えている生徒さんでも、「いい話」はすごくきれいにまとめるんですよ。でも、湊さんの「聖職者」のように、悪意を正面から、突き放して書くというのは本当に難しいんです。人間を冷めた目で見て表現できるというのは、才能ですね。


あれは、素人だから書けたという部分が大きかったと思います。読者を全く意識せずに書いたから、それがいい方に転がったのかな。3作目ぐらいで、読者に少しでもいい人間に思われたかったら、絶対に書けない(笑)。

柏田
あの時点では連作にするつもりはなかったんですか?


はい。「書き切った」って思ってました(笑)。

柏田
その後に、『告白』(「聖職者」を導入とする連作)を読んでも、テンションが落ちず、それぞれの章が物語としてしっかり成り立っていて、最後にまた「あっ」と言わせられる連作長編になっている。どうやってテンションを維持するんですか?


脚本って、最初に人物紹介がついているけど、小説にはない。だけど、私の場合は、自分の中で登場人物表を作ってみるんです。一人称の小説だけど、まず最初に登場人物を考えてみる。この教室には先生がいて、復讐する相手がいて、それぞれどんな性格でって。それをすることで「この人物は、今この立場で、ここにいる」ということが意識できるんです。

だから、授賞式の後に「続きはどんな話にしますか?」と言われて、その後の教室のことを書くことになっても、「あの場所からの続きなんだ」とすぐに認識出来て、最初に作った人物表の中から、次はこの人物の物語で、と始めることが出来たんだと思います。

柏田
登場人物の履歴書作りは、脚本を志す人には「必ずやれ」と教えていることなんですが、そういったものは作りますか?


作りますね。話には出てこなくても「家族構成は? 父母はどんな人物? 兄弟は? 趣味は?」なんていうことは、一人ひとりについて考えます。

判断を読者に委ねて、いつか自分だけのスタイルを確立したい

柏田
湊さんの創作活動において、高校で家庭科の先生をやっていた経験というのは、どう生きていますか?


先生といっても、産休代理などの講師で、全部合わせて5年ぐらいの短いものなんですけど……例えば、一段高い教壇から見る教室の風景だとか、ひとつの教室に40人の生徒がいるにぎやかさだとか、耳に入ってくるティーンの子どもたちの話口調だとか、そういった生の「雰囲気」を毎日取材させていただいていた感覚ですね。

柏田
『告白』『少女』『贖罪』と、ティーンの姿を描いた作品がリアルに感じられるのは、その経験が生きているんですね。現在連載中の作品は、学校を離れた内容ですね?


はい。しかも初めての三人称の作品です。挑戦ですね。

柏田
普段から、アイデアメモのようなものはつけているんですか?


いいえ。昔は作っていたんですけど……。結局、私のような「普通の人間」のアンテナに引っかかるアイデアって、たくさんの人が同じように引っかかっていて、先に誰かが取り上げてしまう場合が多いので(笑)。今は「こういう作品を書く」と決めてから、必要な情報を集めています。

柏田
将来的に挑戦したい分野はありますか?


読んでくださる方から全くかけ離れている世界ではなく、日常とは地続きだけど、少しだけ違う世界の話を書きたいです。今の私は、ノートに書くものがいっぱいあるというより、書かせていただく機会を与えていただいたという状態。だからじっくり、探しながら書いてみたい。

柏田
湊さんの小説を読んで思ったのは、桐野夏生さんやルース・レンデルにも通ずるような、人間の業や悪意を甘さ抜きで書き切る、女性ならではの強さ。本当に次回作が楽しみな作家さんが現れたなって思いました。


ありがとうございます。でも、男性でそう思ってくれる方は、珍しいみたいです。男性からの読書カードには、「よくここまで書けるな」「自分の彼女にはこの本を読んでいて欲しくない」なんていうのが多くて(笑)。

柏田
今は、原稿依頼が引きも切らない状態だと思いますが、次にどんな話を書こうかと考えるとき、迷いが出たりはしますか?


それは……やっぱりありますね。ずっとトンネルを掘っている感じ。私みたいに急に出て来た人間は、飽きられるサイクルも早いというのは自覚していますから。

人間の悪意や業の深さを書いて来た人間が、無理にハッピーな物語を書けば「迎合した」っていわれるし、かといって、モノローグで展開する救いのない結末ばかり続けていたら、みんなお腹いっぱいになる。

柏田
引き出しを数多く持っていないといけないのは、どのクリエイターも同じということかな。どう数をこなし、レベルを維持していくか? 人気作家が必ず陥るジレンマかもしれませんね。でも湊さんなら大丈夫ですよ。


最初は、商店街の中の和菓子屋さんでいいと思っていたんです。こだわりの羊羹を作り続けていれば、お客さんは来てくれるって。でも、羊羹を買い続けてくれるお客さんにしても、やっぱり、ケーキもカレーも食べたい。

今はだから、自分の中でいろんな食べ物のコーナーを作って、お客さんを待っている状態。何が得意かを自分で判断するよりは、読者に委ねてみるというやり方をしています。このやり方で、何年かたったときに自分のスタイルを確立出来ていればいいと。
 

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2019年1月号

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