【PART2】たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート”誌上”講座

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2017.09.14

PART1では、名詞を20個挙げ、その中の1つの名詞から連想することを10個書きました。そして、その10個と選ばなかった19個の名詞を組み合わせ、不思議な言葉を作りました。
このあと、講義はステップ2、ステップ3と進みましたが、詳細は公募ガイド10月号をご覧いただくとし、PART2では受講者が「不思議な言葉」から膨らませて作ったショートショートを発表します。
受講者はほとんどが小説を書いたことがない素人でしたが、田丸式メソッドにより、たった40分で1編書けてしまいました。
みなさんもこの田丸式メソッドを活用し、ショートショートを書いてみてください。
また、ストーリーをさらに膨らませて、短編や長編にすることも可能です。

不思議な言葉から発想した作品を発表!

癒し虫(「吉田拓郎トンボ」改題)
畑美雪

あなたはご存知だろうか? 先日、東京大学工学部の研究チームが新素材開発の中で偶然生み出したというある生物のことを。

それは人工開発された新種のトンボ。

その名も『吉田拓郎トンボ』という。

これはかの有名な広島県出身のスーパースター、フォークソング界のレジェンド、吉田拓郎氏の名前を冠したものだ。

吉田拓郎の歌には癒し効果があることがわかった。それを研究チームがトンボに歌わせることに成功したのである。

すぐに商品化となり、今やコンビニやアマゾンでお手軽に買えるまでになった。値段もひとつ三百九十八円とお値打ちである。

見た目も愛らしく、吉田拓郎の特徴であるサングラスに似た大きな黒い眼がチャームポイント。女子高生のキッチュ趣味にもマッチし、十代の女の子を中心に売れている。あなたも街中で「トンボなのに飛ばなーい、ウケるー」という台詞を聞いたことがあるはずだ。

しかしながらレパートリーは二曲しかなく、餌に至っては広島風お好み焼きしか食べない。このあたりはまだまだ改善が必要だろう。

「……っていう発明を思いついたんだけど、どう?」
「バカなこと言ってないで、さっさと明日の準備してよ」

ううむ、呆れられてしまった。台所で洗い物をする彼女は、こちらを見ようともしない。

なんだい。明日の鎌倉の紅葉狩りに浮かれているぼくの可愛らしさを理解しないとは。
ぼくは吉田拓郎の『落葉』を歌いながら、鞄に荷物を詰めていくのだった。
 


ドラキュラそば
濱田英之

みなさん、この秋、若い女性に話題のフードはなんだと思います? まさかのおそば! 今年の新そばはちょっと変わってるんです。見てください、この赤い麺。森江村という地域でハロウィン向けに作った商品なんです。その名も「ドラキュラそば」! ユニークな名前ですね。独自開発のそば粉に地元のトマトを練りこんでいるんだとか。トマトはリコピンなどお肌によい成分が多く含まれており、美肌効果のあるおそばになっているんです。カロリーが低くダイエットに効果的なのもいいですね。

池袋のこちらのおそば屋さんでは、OLのみなさんの大行列が! こちらの女性、もう今週で五回目だそうです! 都内で完売になるお店が続出しており、人気ぶりが伺えますね。一口いただきましょう。なるほど、トマトパスタのような味わいです。このそばをアレンジしたイタリアンレストランも出ているとか。

また風邪予防にも効果的で、これからの季節にもぴったり! 子供からご高齢の方にも話題になっています。

森江村の村長さん曰く、「村おこしとして販売しましたが、皆さんに気に入ってもらえて何よりです。ぜひ村へもお越しください」とのこと。今年のハロウィンは「おそばくれなきゃイタズラしちゃうぞ?」で決まりかも!?

……僕はDVDを止めた。ひと月前、母が録画した新人レポーターの姉が出ている報道番組だ。あの頃、「ドラキュラそば」がここまで流行するとは思っていなかった。姉の影響で父と母もハマった。学校の友達にも大人気だった。そして……みんないなくなった。「もっとあのそばが食べたい」と言い残して。

ハロウィンの今日、そばアレルギーの僕を含めわずかな人しか東京にはいない。彼らはどこに行ったのだろう? チャンネルを変える。あの森江村の特集だ。村長が村おこしは大成功だと笑っている。でも相変わらず人影の少ない村に見える。僕は窓を開けた。夕焼け空、黒い何かが遠くへ沢山飛んでいく。それがカラスではなく、コウモリに見えた。
 


華麗なるイリュージョニスト・カシオペア
後藤留奈

とある自己顕示欲の強い男が死んだ。このままでは死ねない、もっと目立ちたいという我欲丸出しのタマシイはあっさり成仏できず、ダメ元で宇宙の創造神「アルティメットコスモス」にお願いしたところ、カシオペア座として活躍できることになった。これで日本中の人々に見てもらえる――。

しかし、日本でカシオペア座は秋を代表する星座という位置づけだ。秋の季節が過ぎ、冬が来るとあまり目立てなくなる。

秋と冬の入れ替え準備も整い、冬の合図が聞こえてきた。
「もっと目立ちたい。冬でも目立ち輝き続ける僕を見てくれ!」

カシオペア座は無理やり星の位置を移動させるという強硬手段をとり、冬を代表する星座「オリオン座」へと変異した。星の数が若干足りないオリオン座は、北の空で堂々たる輝きを放った。

「これで冬も目立てる! 話題独占間違いなし」

信州で天体観測中のカップルが冬の星空に違和感を覚えた。

「オリオン座が二つある!」

翌日、日本中のマスコミがこれを取り上げた。朝のニュースでは、天文学者が見解を述べた。

「星の移動により星座の形が変わったものと思われますが、短期間で全く別の形に変わるのは前代未聞です」

元・カシオペア座の願いが一気に満たされた瞬間だった。

この調子で、春には「春の大曲線」と「大三角」に変異してみようという新たな挑戦心も出てきた。

だが、星座界のバランスを乱すこの行為は「アルティメットコスモス」の逆鱗に触れてしまう。

「己の欲望のみで自分の役割を放棄するとは何事だ! 君はもうクビだ。もう一度、人間界で修業してきなさい!」

この日限りでカシオペア座をリストラされ、人間界への転生が決まった。
 


夕焼け大量発生
三浦舞日

九月三十一日は祝日、「夕焼けの日」だ。海の日と山の日に続いて、空に感謝する日に制定された。空を讃えるなら秋の夕暮れが一番美しい、と言った誰かの案が採用されたらしい。この日はもちろん休みで、さらに、好きな場所、好きな時間で夕焼けを楽しめるという、ちょっと変わった特色がある。山や海なら出かけて行けばいいが、夕焼けは時間が限られるし、必ず見られるわけでもない。休みの日、昼間どこかに出かけたなら夕方は大抵家に帰る途中で、疲れて空を楽しむ余裕もないし、眠ってしまっていることもある。

だから、その日は時間や場所に関係なく、夕焼けが楽しめることになった。

室内でも、朝方でもいい。この場所で夕焼けが見られたらいいのにな、と思う場所には高いビルがあって、太陽が遮られていたりする。家のテラスから見たいのに方角が違う。そんな残念な人でもこの日は大丈夫。誰でも、申し込めばこの日だけは好きな場所で好きなことをして長い夕焼けを楽しめる。

世間は初めからこの制度を歓迎したわけじゃない。

「夕焼け? 一日で一番疲れている時間帯を思い出すだけだよ」

毎日仕事が忙しいビジネスマンは、ニュースのインタビューでそう言った。しかし、徐々にさまざまな業界が夕焼けビジネスを企画したことが話題となり、受け入れられるようになった。

最初に飛びついたのは飲食業界。夕焼けを見ながら「いつまでたっても早めのディナー」という企画を打ち出したのだ。特に海辺のレストランが、こぞって真似して取り入れた。もちろんテラス席が人気。食前酒から始まって、コースの料理がゆっくり出てくる。夕焼けの時間が長いからか、スタッフもお客さんもゆったりした雰囲気になって、なかなか評判がいい。夕焼けの赤い光も、心にいい影響があるそうだ。

大人ばかりではない。子どもは、学校帰りや塾の前の時間にキャッチボールをしたいという理由で申し込んだ。いつもはすぐに暗くなってボールが見えなくなるし、学校が終わったらすぐに塾に向かわなくてはならない子供も多い。その声に、今度は世のお父さんたちが応え出した。「息子とキャッチボールができるなんて……」夕焼けのシチュエーションというのも、心にグッとくるものがあるらしい。「少しだけ長く、好きな子と帰り道を歩きたい」という秘密の願いを叶えた中学生もいた。

シチュエーションといえば、映画の撮影にも使われることがあったし、最近はプロポーズの場としても活用される。プロポーズが成功したら、その光景はずっと二人の記憶に残る素晴らしいものになるだろうし、失敗したら夕日に向かって馬鹿野郎と叫んでもさまになる。立ち上がれるまで泣きながら座り込んでも心の慰めになるだろう。素敵なスポットは人気なので、予約制度ができた。

そんなふうに「使える」制度だが、やはり困る人は現れる。主婦の人たちから、「夕ご飯を作るタイミングが分からない」という不満の声が出た。確かに、焼きたてで出したい焼き魚などは時間を間違えると冷めてしまっておいしくないだろう。しかし、改善案が図られた。スーパーが夕方の特売の時間を長くしたのだ。もちろん、お店が夕焼けを申請する。多くのスーパーがそうしたので、全国的に不満の声は止んだ。秋が旬の美味しいものは、売り上げが伸びた。

この日、全国で一日中、夕焼けの赤い光が視界に入らない時間はない。多くの人が喜んで夕焼けを申し込んだので、この日は「夕焼け大発生」という見出しで毎年ニュースに取り上げられることになった。

一人一人が好きなだけ夕焼けを楽しむと、夜はなかなか来ない。一日の時間の長さを調整するために、一週間後、「秋の夜長」タイムがやってくる。これは時間調整のためなので祝日ではない。けれど、これはこれで、主に大人が楽しむ日として親しまれている。「夕焼けの日」で散々遊んだら、この日に疲れを取るといった感じか。それでも、「秋の夜長ウェディングプラン」というのがあって、長めの夜にパーティーを開く人もいるようだ。

反対に、子どもは早く寝させられる日だ。秋の夜はなぜか深く眠ることができ、夏の間と夕焼けの日、思い切り遊んだ疲れがスッキリ取れるからだ。子どもの頃、夕焼けの日から秋の夜長までを夢のように過ごして深い眠りから覚めると、窓の外の空気はハッとするほどひんやりしていた。子どもながらに、季節がキッパリ切り替わったと分かった。今から寒い季節へ向かうんだと、ワクワクしたことを思い出す。