結果発表

  • 文芸
  • エッセイ

「帯にまつわる話」エッセイ募集

応募総数
134点
主催
西陣まいづる 帯文化伝承の会
  • 大賞

    西陣まいづる謹製の錦地袋

    「受け継がれる帯」 T.T.(滋賀県)

    「帯は俳句といっしょで季語が要る」とは、米寿を迎える祖母の言葉だ。着物は帯で季節感を表す。春なら雛や桜、秋なら紅葉やすすき。私は祖母の後ろ姿で、季節の移ろいを感じて育ったような気がする。昭和一けた生まれの祖母は、平素はしまり屋だが、正月には必ず帯を新調した。畳の部屋に美しくさーっと流れる帯の川。六畳間は、たんすから引っ張り出した帯の色・色・色でたちまち埋めつくされる。続いてシュッシュと帯を締める小気味のよい音。祖母の柳腰には本当に帯がよく似合う。
     しつけ糸の端っこを、どなたか「いい人」に取ってもらうと、願いがかなう……結納の日、私の帯を結んでくれた祖母は、目立たない場所にほんのちょっとだけ糸を残しておいてくれた。果たして祝いの席で、婚約者はその糸くずを目ざとく見つけ、照れくさそうにそっと取ってくれ、私は晴れがましい気持ちでいっぱいになった。祖母は嫁入り道具にと、花うさぎのやお手玉模様のや、蝶々の柄のや、自分の大切な帯をいくらか譲ってくれた。帯のよいところに、人から人へ譲れるということがある。何かあたたかなものが綿々と受け継がれていくような心持ちだ。
     この冬風呂場で倒れてリハビリ生活を余儀なくされている祖母は、もう帯を結ぶ手が回らないと淋しそうにぽつりと言った。私はこのことがきっかけで、今度は私が祖母に帯を結んであげようと決心した。まだまだ初心者の私が着付けをすると、手が震え、心臓がどくどく鳴るばかりで、帯はちっとも動いてくれない、ということになりがちだ。まだまだ勉強がいる。それでも私は帯結びをあきらめない。それは、帯という一枚の川のなかに、どれだけの心と手と時が入っているか、知っているからだ。

  • 優秀賞

    西陣まいづる謹製の更紗袋

    「まなざしの帯」 大江美典(兵庫県)

    息子が茶道教室に通うことになった。目に眩しい真っ白な靴下に履き替え、教室に通う姿を目にすると、その成長に胸が熱くなる。
     そして昨夏、星まつりの夜にお茶席の手伝いをすることになった。ドレスコードは浴衣。甚平しか持っていない息子の為にインターネットで帯と浴衣のセットを慌てて購入する。
     早速届いた浴衣と帯のセットを前に私は頭を抱えてしまった。丈もぴったりな浴衣には何一つ問題ない。けれどセットの兵児帯がペラペラのひどい粗悪品だったのだ。
     私が途方に暮れていると、父が一本の兵児帯を黙って差し出した。
     困惑する私にこの兵児帯は自分の父親のものだと、父は言葉少なに語った。
     父の父、つまり私の祖父は四十歳と言う若さでこの世を去った。
     そんな祖父が自宅でくつろぐ時はいつもこの帯を締めていたことを思い出したらしい。
     試しに息子にあわせてみると、少々長めではあるものの幅広の帯は生地もやわらかくきつく締まり過ぎると言うことがない。息子もとても快適そうであった。
     後日、祖父の帯を締め私たちの元へお茶を運んで来た息子は柔和な笑みを浮かべ、とても落ち着いた様子であった。その姿に不思議と、会ったこともない祖父の姿が重なる。
    「しっかりと勉強しなさい。」
     祖父は今際の際に、そう父に言い残したと聞いている。小さな息子を遺してこの世を去らねばならなかった祖父はどれほど無念だったことだろう。
    だからこそ父を私を息子を、ずっと見守ってくれているのではないか……。祖父の帯を締めた息子の姿を前に、私は改めてそう感じた。
     これからも息子が祖父の帯を締める度、私はそこに祖父の日だまりのようなやさしい眼差しを感じるだろう。祖父は常に、私たちと共にある。

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