結果発表

  • 文芸
  • エッセイ

志布志市「志」エッセイコンテスト

応募総数
2,315点
主催
志布志市/志布志市教育委員会/NPO志布志生涯学習センター
  • 志大賞

    10万円

    エール 阿部喬子(愛媛県)

    「自分が決めたように、やりなさい」
     間髪入れずに返ってきた、思いもよらない父の言葉に、一瞬戸惑った。いつも私がすることについて静観していた父だったが、今回ばかりは何か意見すると思ったからだ。看護師として公立病院への就職が決まり、報告した時の父の嬉しそうな笑顔を、今でもはっきりと覚えている。だからこそ余計に、七年間勤めていた病院を辞め、看護教員になることを父には言いづら
    かった。
     その報告から数週間後、父は脳梗塞を発症し入院することになった。様々な症状が出現し、意識も常に鮮明ではなかった。医師からは、全身状態は悪く、いつ何が起きてもおかしくないと聞かされた。父の息づかいと点滴に取り付けられた機械の音だけが響く、二人だけの病院に居ると、どうしようもない孤独感が襲ってきた。その空間は耐え難く、まだ目の前に父がいる
    ことを実感したく父の顔を覗き込み、こう切り出した。
    「父さん、私、来月から先生になるよ。この間話したやろ」
    あの時とは違い、少し間を置いて……。
    「……いい仕事を……選んだなぁ……」
    大きく息を吐くのと同時に、痩せた身体から絞り出すような低い声で答え、少しだけ開けた目をすぐにまた閉じた。小さな音もよく響く狭い病室で、溢れそうになる感情を抑えるのに必死だった。
     看護教員として過ごす日々は、想像とは全く違っていた。
    「どうしてこの道を選んだのだろう」と頭を抱える日もある。
    そんな時にいつも頭をよぎるのは、父のあの言葉だ。
    「自分が決めたように、やりなさい」
    自分が決めたことは最後まで責任をもってやりとげるということ、これは父からのエールであり、最後に交わした大切な約束だ。
     私は看護教員だ。私は父のたった一人の娘だ。いつかまた逢える日まで、あの言葉を追い風に走り続ける。

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