キャラを立てる、分ける
映画化された万城目学の『プリンセス・トヨトミ』をもとに、どのように人物を配しているかを見てみよう。
松平元は、国家公務員採用Ⅰ種試験を受けた全四万人の中でトップ合格。大蔵省や通産省の誘いに応じず、会計検査院に入院。卓越した調査能力と、熾烈とも言える追及の厳しさから「鬼の松平」と呼ばれる。短髪で三島由紀夫に似た風貌。
エリートだが、一日にアイスクリームを五個食べるアイス好き。これについて部下の旭は作中で「チャーミングです」と言っている。
鳥居ただしは、背が低く肥満。つまり、チビでデブ。生来のおっちょこちょいで、ルーティン・ワークの書類作成はずさん。キャラは強い。
古いファイルに書き直したばかりの文書(不正文書)があると便意を催すといった異能があり、ここぞというときに異能を発揮する(偶然を呼ぶ)ところが痛快。
旭・ゲーンズブールは長身の帰国子女。旭も国家公務員採用Ⅰ種試験にトップ合格。大きな欠点は持っていないが、鳥居との掛け合いがおもしろく、二人の性格が垣間見える。
「だいたい君は、一方的なんだよ。休暇のことだって、いきなり言いだすし。おかげで昨日、日曜なのに慌てて駅までチケットを買いに行く羽目になったんだぞ」
「お言葉ですが、その件は休暇に入る前にメールでお伝えしています。昨日まで忘れていたのは、単に鳥居さんの〝うっかり?です」
「そ、そんなメール知らない。だいたいメールを送ってハイ終わり、じゃ困るんだよ。一日に何十通もメールが来るんだ。ちゃんと口頭で言ってもらわないと」
「出張で局にいなかったのは鳥居さんのほうです。なるほど――、確かに出張先まで直接お伝えにいかなかった私が、悪かったのかもしれません。怠慢でした。先週、九州まで出向かず、申し訳ありません」
(万城目学『プリンセス・トヨトミ』)
真田大輔は、幼い頃から男の子であることに違和感を持つ中学2年生。全登場人物の中で一番キャラが強い。
橋場茶子は、陸上部に所属する活発な女の子。事故で両親を失っている。昔からいじめられる大輔を守ってケンカをしてきた。大輔が蜂須賀(ヤクザの息子)に暴行を受けたときは、
臙脂色のジャージ姿の少女が、坂道を駆け下りてくるのが見えた。何事かと詮索する間もなく、少女はぐんぐん近づいてきたと思うと、いきなり地面を蹴った。(中略)
次の瞬間、蜂須賀の顔の真ん中に、茶子のスニーカーのゴム底がめりこんだ。
(万城目学『プリンセス・トヨトミ』)
という過激な性格をしている。
ただし、大輔のキャラが濃い分、茶子のキャラは薄めになっている。
大輔の父親、幸一は不器用で頑固、広島カープの前田のファンという設定になっているが、キャラは並。
詳しくは実際に『プリンセス・トヨトミ』を読んでほしいが、読むときは、下記のことに留意すると参考になる。
一、人物がはっきりイメージできる(紙の上に浮きあがってくる)。 一、違う人物と区別できる(キャラ分けがされている)。 一、会計検査院、大阪城についてウンチクが語られている。 一、会計検査院という実在する役所と、大阪人という特殊性が設定にリアリティーを持たせている。 |
【登場人物】
■松平元
会計検査院第六局副長。「鬼の松平」と呼ばれる。
■鳥居ただし
松平の部下。「ミラクル鳥居」と呼ばれる。
■旭・ゲーンズブール
松平の部下。ハーバード大卒の帰国子女。
■真田大輔
デブでブサイクな中学2年生。セーラー服で通学する。
■橋場茶子
大輔の幼なじみ。陸上の高跳びの選手。
■真田幸一
大輔の父親。お好み焼き「太閤」主人。大阪国総理大臣。